紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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   IPM (総合的有害生物管理技術)で使われる防除手段

1.IPM (総合的有害生物管理技術)の必要性   −特に、害虫管理について−

 戦後、化学合成農薬の生産技術が飛躍的に発展し、農業における害虫防除は、もっぱら化学合成農薬一辺倒になり、古くから行われていた各種防除手段は返りみられなくなりました。しかし、化学合成農薬の過度の使用は、農薬による人命事故、レーチェル・カーソンも警鐘をならした野生生物への悪影響、薬剤抵抗性害虫の発生、水質・土壌汚染、カイコやミツバチなどの有用生物の被害など、様々な問題が発生しました。さらに、化学合成農薬のみに依存した農業では、農薬をまくと、まかない場合よりもかえって害虫が増えてしまう、いわゆる「リサージェンス現象」や、新規開発した農薬が害虫の薬剤抵抗性発達のために早くから使い物にならなくなり、害虫の種類によっては有効薬剤が枯渇しそうになる事態も生じることになりました。

 
このようなことから、1960年代に、「農薬だけでなく様々な防除手段を防除体系の中に取り入れ、害虫を経済的な被害を起こさない密度に抑制する」という害虫管理の戦略が提起されました。このような考え方を総合的害虫管理(IPM: Integrated Pest Management)と言います。

 現在では、化学合成農薬の他に、下記のように伝統的な防除法に加えて、物理的防除法、生物的防除法、選択的薬剤やフェロモンを用いた化学的防除法など各種の防除法が採り入れられて、総合的な防除が行われています。農薬の規制が強化され、これまで以上に農薬の使用基準を守って防除を行う必要がありますが、IPM技術をよく知り、採り入れることによって、効果的な害虫防除を行うことが出来ます。

2.各種の防除手段

 1)耕種的方法

輪作 
 同じ圃場で、同一の作物を毎回(年)栽培せずに、異なる作物を取り入れながら栽培する方法です。害虫や病原の蓄積を抑制、回避する。例えば、センチュウによる被害を回避するためには、対抗植物といわれるセンチュウ密度を低下させる作物との輪作が有効です。

混作 
 同じ圃場で、同時に複数の作物を栽培して、単作化による病害虫の多発生を抑制、回避する。別の作物が害虫や病原の移動分散を妨げる。害虫の場合には、落下個体が元の寄主植物に戻りにくくなる、成虫が産卵対象を見つけにくくなる、忌避的な植物を植えることにより、産卵や移動を阻害する。ソルゴーなどの背の高い植物を植えると、害虫の移動分散ないし寄主植物の発見を遅らせることができます。

作期の移動
 害虫が産卵する時期を避けて、田植えや定植、播種を行うと、産卵量が減り、害虫による被害が減ります。

抵抗性品種の利用
 害虫に抵抗性の作物の品種は、それほど多くないが、トマトのセンチュウ抵抗性品種などが知られています。

 2)物理的方法

防虫網
 ハウスなどでは、側窓や天窓を防虫網で覆うことにより、4mm目ではヤガ類を、1mmではアブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類の侵入を抑制できるますが、さらに、目合いが小さくなると侵入防止効果が高くなります。しかし、ハウス内部の温度が上昇するという問題があります。網目に銀色の細工を施した防虫網では、同一の目合いのものよりも侵入防止効果が高まります。

 目合いの大きさは害虫のサイズと関係し、キスジノミハムシでは0.8mmでハウスへの侵入を防止することが出来ます(兵庫県成績)。シルバーリーフコナジラミ、タバココナジラミ・バイオタイプQの施設内侵入を防止するために、目合い0.4mmといった細かなものも使われていますが、施設内が高温にならないように換気などの手だてが必要です。セイヨウオオマルハナバチが外来生物法の特定外来生物種に指定されたので、本種を施設栽培で利用する場合には、逃亡防止用の防虫網の設置が義務付けられましたが、ヤガ用の4mm目合いのもので対応できます。

捕殺
 
害虫を見つけて捕る方法です。害虫を見つけるには、被害痕のある場所や、害虫の糞のある場所を探して害虫を捕まえます。ヨトウムシは、昼間は根の周辺の土中にいるので見つけにくいので、活動する夜間に探すと見つかりやすい。

黄色蛍光灯
 
ハスモンヨトウ、オオタバコガなどのヤガ類は、夜間に黄色蛍光灯の光があると活動が停止し、被害を抑えることができます。果樹を加害するアケビコノハなどの吸蛾類も夜間に黄色電球などの光によって加害が抑制されます。チャバネアオカメムシも黄色の光で飛来が抑制されます。

誘蛾灯
 
蛾類は夜間に青色、ブラックライトなどの誘殺灯に誘引されます。このため、防虫網でしっかりと覆ったハウスでは、夜間に誘蛾灯を点灯することにより、害虫の密度を下げ、被害を軽減できます。交信かく乱剤と誘蛾灯を併用することにより、それぞれ単独で設置した場合よりも、被害を軽減させるという報告があります。

色彩トラップ
 
コナジラミ類、アザミウマ類、マメハモグリバエでは、色彩トラップによって、害虫の発生量をモニタリングするとともに、黄色粘着リボンでコナジラミを、ライトブルーの粘着リボンでミナミキイロアザミウマの防除を行うことができます。

シルバーマルチ、シルバーストライプマルチ
 
土壌表面をマルチングする場合に、銀色や銀色の縞のものを用いると、アブラムシ類やアザミウマ類の圃場への飛来を抑制できます。ただし、作物が生長し、マルチ表面が覆われてくると効果が無くなります。ミカン園で紫外線反射シートを土面に敷くと、アザミウマ類の飛翔移動が妨げられて被害を抑制することができます。

近紫外線除去フィルム
 
ハウスの被覆資材として、通常のフィルムを近紫外線除去フィルムに替えると、アブラムシ類、コナジラミ類、アザミウマ類のハウス内への侵入が抑制されます。しかし、一度侵入した害虫の増殖はほとんど妨げられません。育苗用の専用ハウスを近紫外線フィルムで被覆すると、上記の害虫の侵入が抑制されてクリーン苗を育てるのによい。しかし、ナス栽培でこのフィルムを用いると、果実の着色に影響するという報告があります。また、380mm以下が強く除去されたフィルムの場合では、セイヨウオオマルハナバチの訪花活動が阻害されると言われています。

太陽熱消毒
 
夏に作物栽培が終了した時に、前作の害虫を次作に持ち越さないように、ハウスなどを密閉して高温にし害虫を死滅させます。あるいは、施設から除去した残渣や剪定枝にビニールシートをかぶせて高温にし、残渣の中の害虫を死滅させます。

水に浸漬
 
ダイコンなどを加害するキスジノミハムシは、連作すると密度が高まり、被害が大きくなります。もし、被害圃場を水で浸すことができれば、越冬成虫の密度を低下させることができます。

吸引機
 発育が斉一な葉菜類などでは、コナガなどの小型害虫を吸引式捕虫機で定期的に採集して密度を低下させることができます。このための吸引式(あるいは吹き出し式)捕虫機が市販されています。

 3)生物的方法

天敵等の生物資材の利用
 
施設栽培野菜や花き類を加害する害虫に対する天敵や微生物製剤が農薬登録され、市販されています(市販されている天敵(昆虫・ダニ)類一覧表)。これらの使用は、化学合成農薬のように撒けば効くというものではなく、作物の種類や害虫の種類によって、天敵等の使用時期、使用回数、使用間隔、使用量などに工夫が必要である。上手に使いこなせば効果が出るので、経験と知識が重要です。

土着天敵の利用
 
圃場周辺の天敵相を活用する。このためには、例えば、トマトのハモグリバエ類を防除するために、サヤエンドウを近くに栽培し、サヤエンドウの葉を加害するがトマトの葉は加害しないナモグリバエに寄生した寄生蜂を葉ごと採集して、トマトハウス内に持ち込む方法があります。これらの寄生蜂はトマトのハモグリバエ類の天敵となります。

バンカー植物
 
天敵の寄主となる昆虫が加害する植物を圃場内や周辺に植えると、天敵がここで増殖し作物を加害する別の害虫に移って寄生することがありますが、このような効果を狙うのがバンカー植物です。ただし、バンカー植物は対象作物の害虫が付かないものを選ぶことが肝要です。

コンパニオン植物

 ある種の植物同士をうまく組み合わせると、病害虫や雑草の被害をなくしたり減らすことができます。この相性のよい植物のことをコンパニオン・プランツと呼びます。害虫に対して忌避的な匂いのする植物、あるいはマリーゴールドのような殺線虫植物を近くに植えると、害虫の産卵や寄生を抑制ないし阻害することができます。

 4)化学的方法

 この方法には、一般の化学合成農薬が含まれますが、最近は、昆虫成長制御剤(IGR剤)のように、昆虫の種類によって効き方が異なるという選択的な殺虫性を持つもの、人畜への影響が極めて少ないものまで、様々な剤が開発、市販されている。また、粒剤、微粒剤など剤型を工夫したもの、ドリフトしにくいもの、処理しやすいものまでいろいろ開発、市販されています。従って、IPMの体系の中で、生物的防除法を組み込んでいくためには、これらの様々な化学合成農薬を如何に有効に使っていくかが重要となります。

フェロモン剤

 フェロモン剤については、化学合成農薬とみられるものの、直接散布しないこと、極めて微量の成分を空中に放出して使われることから、一般の合成農薬とは全く別の形で使用されています。最近は、果樹害虫、野菜害虫、芝害虫に対して、複数の害虫に対して有効な成分を含む複合交信かく乱剤(コンフューザーという)が普及してきています。
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